社長の言葉 番外編:住宅新法8月21日発行 インタビュー記事
住宅新法8月21日号・インタビュー記事.pdf
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「高齢化」と向き合う‐仲介会社の視点‐
前回は高齢者向けの賃貸住宅探しを支える「R65不動産」を紹介。入居者の高齢化は認知症や死去後の早期発見の体制を整えることで、むしろオーナーにとっては長期入居につながる経営利点があると分かった。今回は不動産フランチャイズ(FC)に加盟する地域企業の取り組み。高齢化する不動産オーナーに家族信託を推奨し、着実な賃貸経営を支えていく。
「認知症が発症して困るのは、財産管理上、賃貸物件の契約行為・売却行為などができなくなること。厚生労働省の推計(12年)では65歳以上の高齢者の4人に1人は認知症あるいは予備軍。管理を担う当社にとって、会社経営の根幹が揺らぐ問題だ」。東京都中野区で仲介・賃貸管理からアセットソリューションまで幅広く事業と行う㈱スペースの高山義章社長はこう話す。加盟するLIXILイーアールエージャパン(東京都中央区、斎藤雄二社長)に「認知症サポートキャラバンパートナー企業」の登録を勧めたのが同社。3年前、ERA本部が開く家族信託セミナーに参加したことが高齢者対策のきっかけだという。
柔軟な財産管理も
家族信託とは、財産を持っている人(委託者=親)が信頼できる相手(受託者=子)に、金銭や不動産などを託し、受託者は受益者のためにその財産の管理・処分をする仕組み。成年後見制度の目的は「被後見人の財産保全」となるため不動産の購入や運用は認められないが、家族信託では柔軟な財産管理が可能。信託契約を結ぶことで、賃貸借契約や管理委託契約、リノベーション工事請負契約などが可能となるため、相続を予定している子供に賃貸契約を実践で教え、しっかりと引き継ぎたいオーナーにとって有効な選択肢の一つだ。
同社では同じ中野区に事務所ががる(一社)家族信託普及協会認定の「家族信託コーディネーター」資格を5人が取得。更に「管理会社1社では広がらない」と高山社長自らが発起人となり、税理士や地域金融機関、保健代理店等と共に「チーム中野・家族信託」を組成。ワンストップで認知症対策に取り組む体制を整え、自社セミナーで家族支度の啓蒙活動も行っている。
同社の取引先でもあるオーナーは約600人(管理戸数役4000戸)。うち70代以上が半数を占めるという。家族信託制度の認知度向上を実感する一方、「頭では理解していても『元気なうちは子供に継承しない』というオーナーも少なくない。事業継承の鍵は親子間のコミュニケーションだが、親世代では資産を自己完結できる方法として単純売却を選ぶケースが多い」と現状の課題を指摘する。
では、どのような対策が有効か。「老朽化した賃貸物件をそのまま次世代に継承するのは非現実的。かといって70~80代のオーナーが建て替え、新築を手にし、借入金も併せて継承するという形になっても歓迎されないだろう。オーナーが自分のっている現金で物件の外壁や室内などをリノベーションし、借入金のないリノベ賃貸住宅として蘇生した上で継承していけば、今後15~20年は家賃収入が見込める」と対策案を示す「事業継承、認知症リスク、家族信託を包括的に捉えることが必要。進行中の案件が5件あり、現実的な事例が生まれればこの2、3年で加速するだろう」と予測する。
「寛容性」の土壌で
ところで、高山社長はまちづくり活動30年のベテランでもある。33歳で同社の3代目として家業を継いだ後、地元で異業種ネットワークを広げてきた。「昔は中野の木賃アパートに全国から上京した若者が住んだ。今ではアイヌと沖縄という異なる文化が融合した祭りや、作者独自の方法・発想で制作された現代アート『アール・ブリュッド』のメッカとしても注目されている。地域のホスピタリティ、寛容性というDNAが中野にはある」とし、まちづくり、ネットワークの中で高齢化問題も受け止めるべきだと考える。「地域のポテンシャルが上がり、結果としてそれぞれの事業者の利益として帰ってくる。地域包括の仕事を進めていきたい」。(佐々木淳)